※本記事は住宅情報WEBマガジンDaily Lives Niigataによる取材記事です。
新潟島にエリアを絞って土地探しをスタート
Wさん家族が暮らす家は、新潟市中央区の新潟島に立っている。(新潟島とは、日本海、関屋分水、信濃川に囲まれたエリアの通称。古町などの繁華街が含まれる)
「僕も妻も新潟島で育ちました。徒歩や自転車で街にも川にも海にも行けるのが子どもの頃から好きで、家を建てるなら新潟島がいいなと考えていたんです。モリタ装芸さんは広告などで目にしていて知っていたんですが、妻の元職場の先輩がモリタ装芸さんで家を建てたということで遊びに行ったんですよ。素敵なドアがあって、それについて聞くと『担当さんが探してくれたんだ』と話していました。希望に対して応えてくれる姿勢に魅力を感じ、早い段階でモリタ装芸さんにお願いしたいと思うようになりました」とご主人。
ただ、新潟島にエリアを絞って土地探しを始めたところ、なかなかいい土地に巡り合えなかったという。
「営業の阿部耀介さんに土地探しを手伝って頂きましたが、なかなか新潟島は土地が出ないんです。やっと土地が見つかったと思っても車が入れないような細い道に面していたり…。家を建てたこの土地はたまたま知り合いが所有していた土地で、相談すると売って頂けることになりました。歩いて飲みに行きやすい場所でしたし、妻の実家や職場にも近い。とてもいい場所だと思いました。広さは17.7坪ということで、自ずと3階建ての計画になりましたね」(ご主人)。
金属製の柱やブレースが印象的な台形の玄関
小さな土地でも、家の中はなるべく広く感じられるようにしたい。そう考えていたWさん夫婦は、調べていく中で、1階から3階まで階段が一直線に続いている住宅の事例を見つけた。そして、そうすることで空間を広く見せようと考えたという。
設計を担当した須田達則さんはその希望をくみ取りながらプランニングを進め、車1台分の駐車スペースを確保した3階建ての住まいを提案した。
「一般的には玄関の外にポーチ階段を設けるのですが、ポーチ階段のスペースを省き玄関の中に入ってから階段を上がれるようにしたり、駐車スペースの形状を台形にしたりすることで車1台と自転車を止められるスペースを確保しました。また、建物の高さが10mを超えると法規制が厳しくなるので、場所ごとに必要な天井高を設定して、限られた条件の中でも広く感じられるように調整しています」と須田さん。
玄関の引き戸を開けたところは台形の玄関で、上を見ればスケルトン階段から光がこぼれ落ちてくるのが見える。
吹抜に設けられたブレース(筋交い)や玄関内の柱は、空間をすっきりと見せるために金属製を使用。
「金属の質感が好きなんですが、このブレースは機能美が感じられて特にいいですね。丸柱はよく娘が登って遊んでいます」(ご主人)。
広く見えるように玄関内には扉付きの収納を設けず、コーナー部分に可動棚だけを設置。
アパート暮らしの頃から使っているという金属製のラックを横に2つ並べ、そこは帽子を置くスペースにするなど、元々持っていた家具もバランスよく織り交ぜている。
圧巻の直線階段が3つのフロアを繋ぐ
カーポートと玄関が1階の半分を占めており、もう半分は水回りと階段スペース。
ブラックチェリーの床(ウッドワン コンビットグラードプラス ランダム ブラックチェリー)が張られた玄関ホールのすぐ左手に、3畳の洗面脱衣室がある。
グレーのフロアタイル(サンゲツ モルタルブロック IS-887)に、グレーの造作洗面台。白いタイルや黒い物干しバーなど、モノトーンを基調とした無機質な雰囲気が特徴だ。
幅約1.8mの洗面台は朝の忙しい時間でも横並びで使えるゆとりがあり、収納やバスタオルを干すスペースもバランスよく確保されている。
階段の登り口にレイアウトされているのは、鮮やかなブルーのアクセントクロス(ニップコーポレーション CREA Y160-54)が張られたトイレ。
要素を抑えた空間に、ミニマルなデザインのトイレットペーパーホルダーがよく似合う。便器は手洗い器一体型で流れるようなデザインのベーシア(LIXIL)。この設備の選択にも機能美を求める感性が感じられる。
そして、その先にあるのが、W邸で最も特徴的な長い直線階段だ。
1階から3階までが一体になった細長い吹き抜け空間に架けられた階段はスチール製。この階段が3つのフロアを繋ぐ動線としてだけでなく、視覚的な一体感をつくる役割も担っている。
狭小地という条件から、1フロアあたりの床面積は階段部分を含めて約35㎡(10.6坪)が限界値。それが単純に3つに分断されてしまうと、小さな雑居ビルのような建物になりかねない。
そんな制約の中で少しでも広く感じられるようにと、Wさん夫婦が希望したのが3フロアを繋げる直線階段だった。
この階段は一般的な木造住宅で見られる階段幅(柱芯間距離で91cm)よりも10cm広くつくられており、少し余裕を持って上り下りできるのも特徴だ。
カリモク60の家具が散りばめられた2階リビング
1階と3階を結ぶ直線階段の踊り場が2階の居室への入口になっている。
奥は床が32cm下がったリビングで、手前はダイニング・キッチン。天井高は均一で、リビング側に行くと床が下がっている分空間が広く感じられる。
「この段差は座るのにもちょうど良くて、2~3家族が集まる時はここがベンチのようになるんです」(奥様)。
明るさや眺望、プライバシー性など、この土地条件においてさまざまなメリットがある2階リビング。
「元々2階リビングに憧れていたので、須田さんからの2階リビングの提案は願ったり叶ったりでした。階段の上り下りは頻繁になりますが、いい運動になっています」(ご主人)。
奥様も「2人目の子どもを妊娠していた時、この階段の上り下りのおかげで陣痛が促進され、予定日よりも早く生まれました」と笑う。
キッチンは横幅をコンパクトに抑えられるL字型。
コックピットのようなキッチンは少ない移動でいろいろなものに手が届きやすいのが特長だ。
「ダイニングのスペースも確保するためにストレートではなくL字にして頂きました」とご主人。
鮮やかなブルーが目を引くルイスポールセンの照明「PH5ミニ」の下に置かれているのはカリモク60のDテーブルで、100cm×80cmの少しコンパクトなサイズがこの空間にちょうどいい。
「アパートに住んでいた頃に先輩からこのDテーブルを譲り受け、それに合わせて同じカリモク60のDチェアを購入しました」とご主人。
リビングに置かれている黒いソファはカリモク60の3シーターのロビーチェア。2階全体に感じられる少しレトロなカフェのような空気感は、これらの家具が醸し出しているのかもしれない。
室内を見渡せば、壁のタンブラスイッチやToffyの電子レンジ、STANLEYのタンブラーなど、クラシカルでシンプル、そして機能的なものが選ばれており、そんなところにもWさん夫婦の美意識が感じられる。
キッチン前に造り付けられているのはカウンターデスク。
そこには、アメリカの学校などで使われているというVIRCO(ヴァルコ)社の9000Chairが並ぶ。
「ここは子どもの勉強スペースでもあり、ちょっとした書き物などをする場所として使っています。そのすぐ後ろの棚には子どものランドセルなど普段使う物や、僕のキン肉マン消しゴムのコレクションを並べています(笑)」とご主人。
3階は可変性のあるフリースペース
直線階段をさらに上がって行くと3階に辿り着く。
こちらは10畳のフリースペースで、子ども部屋兼物干しスペースとして活用。将来必要に応じて間仕切り壁を追加することで、3.75畳の個室を2つと廊下に分けることもできる。
3階から階段を見下ろしたところがこちら。
3階から2階にいる家族に声を掛けやすいのはもちろん、さらに下の1階にまで声が届く開放的なつくりになっている。
腰壁をつくらずにスチール製の手すりを設けることで視線が広がるように考えられているのもポイントだ。
3階奥には水回り以外で唯一の建具が設けられている。
その先は寝室とウォークインクローゼット。
細長い8畳の空間の奥が3畳のウォークインクローゼットで、手前の5畳が寝室になっている。
「ロフトは妻の希望でつくって頂いたもので、クリスマスツリーなどの季節物を置くのに役立っています。僕はどちらでもいいと思っていたスペースでしたが設けてよかったです」(ご主人)。
好きなことが詰め込まれた3階建ての家
「準防火地域の18坪という狭小地で、様々な法規制を意識する必要がありました。各階の天井高やロフトの位置、建物全体の構造などの制限から生まれた各々の要素がこの家の楽しい魅力になっていると思います。スケルトン階段の影の出方も面白い家になりましたね」と設計の須田さん。
ご主人は、望んでいた立地で、徒歩や自転車で街にも海にも川にも行ける暮らしが叶えられたことや、お酒を飲みながら金属の階段や手すり、ブレースを眺めたり、好きな家具や雑貨に囲まれて過ごせることに満足しているという。
奥様は「家の中で直線階段が特に好きで、よくここに座って過ごしています。階段に座ってお酒を飲む時間も好きですね」と階段への想いを話す。
狭小地の住宅と聞くと、何かを諦めなければならないような気がしてしまうが、シンプルな箱型の建物の中には、好きなことがたっぷりと散りばめられた自由な空間が広がっていた。
フロアごとに変わる景色や、スペースごとに違う居心地の良さがあるのも面白い。それらが混然一体となり楽しい雰囲気がつくられている。
小さな土地が大きな可能性を秘めていることを実感させられる3階建て住宅。街なかでの新築を考えている人は是非参考にしてみては?
W邸
新潟市中央区
延床面積 104.00㎡(31.46坪)
構造 木造軸組工法
竣工年月 2019年11月
写真・文/Daily Lives Niigata 鈴木亮平